大阪地方裁判所 平成7年(わ)1267号
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官室田源太郎出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役二年六月及び罰金五〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 自己が所有していた不動産を譲渡した藤井好子(平成六年三月八日ころの住所は大阪府箕面市桜ケ丘一丁目六番二七号)から依頼を受け、同人の所得税確定申告手続に関与したものであるが、同人並びに同人から依頼を受けて同申告手続に関与した鈴木彰、岡澤宏及び平井龍介と共謀の上、右藤井好子の所得税を免れようと考え、別紙(一)修正損益計算書記載のとおり、同人の平成五年分の総合課税の総所得金額が二六一五万〇九一七円、分離課税の長期譲渡所得金額が一四億〇一〇八万六四三六円で、これらに対する所得税額が四億二八五〇万二五〇〇円であった(別紙(二)税額計算書参照)にもかかわらず、譲渡収入の一部を除外するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成六年三月八日、大阪府池田市城南二丁目一番八号所在の所轄豊能税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総合課税の総所得金額が二一〇一万六七一六円、分離課税の長期譲渡所得金額が一億〇五一五万〇四七六円で、これらに対する所得税額が三七一五万四七〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(二)税額計算書記載のとおり、平成五年分の所得税三億九一三四万七八〇〇円を免れ
第二 自己が所有していた不動産を譲渡した酒井君子(平成六年三月八日ころの住所は大阪府豊中市新千里西町三丁目一六番一五号)から依頼を受け、同人の所得税確定申告手続に関与したものであるが、同人並びに同人から依頼を受けて同申告手続に関与した鈴木彰、岡澤宏及び平井龍介と共謀の上、右酒井君子の所得税を免れようと考え、別紙(三)修正損益計算書記載のとおり、同人の平成五年分の総合課税の総所得金額が六〇七万五六四〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が一〇億五七六三万〇二五七円、退職の所得金額が八九〇万円で、これらに対する所得税額が二億二〇八八万七三〇〇円であった(別紙(四)税額計算書参照)にもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成六年三月八日、所轄の前記豊能税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総合課税の総所得金額が二三一万四七五三円、分離課税の長期譲渡所得金額が一億一〇八六万三五三九円、退職の所得金額が八九〇万円で、これらに対する所得税額が二〇八八万六七〇〇円(ただし、申告書には誤って二〇八七万六七〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(四)税額計算書記載のとおり、平成五年分の所得税二億〇〇〇〇万〇六〇〇円を免れ
第三 自己が所有していた不動産を譲渡した藤井輝夫(平成六年三月八日ころの住所は兵庫県西宮市北六甲台四丁目一七番一五号)から同人の所得税確定申告手続を依頼され、同人の代理人として関与したものであるが、鈴木彰、岡澤宏及び平井龍介と共謀の上、右藤井輝夫が右所有不動産を売却したことに関して同人の所得税を免れようと考え、別紙(五)修正損益計算書記載のとおり、同人の平成五年分の分離課税の長期譲渡所得金額が一億九八四八万円で、これに対する所得税額が五九三九万三一〇〇円であった(別紙(六)税額計算書参照)にもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成六年三月八日、兵庫県西宮市江上町三番三五号所在の所轄西宮税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の分離課税の長期譲渡所得金額が八五〇万円で、これに対する所得税額が二三九万九一〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(六)税額計算書記載のとおり、平成五年分の所得税五六九九万四〇〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
(注)括弧内の漢数字は証拠等関係カード検察官請求分記載の証拠番号を示す。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官調書〔二七〇、二七二ないし二七四〕
一 分離前の相被告人鈴木彰、同岡澤宏及び同平井龍介の当公判廷における供述
一 藤井好子〔二六三、二六四、二六六、二六七〕、鈴木彰〔二七七〕、岡澤宏〔二七九〕、平井龍介〔二八〇ないし二八四〕、酒井君子〔二八六、二八八、二八九〕、上村一郎〔二四六〕、藤井静雄〔二五三〕及び柿田ヨシエ〔二五六〕の検察官調書
一 査察官報告書〔二三四〕
一 査察官調査書〔二三五〕
判示第一及び第二の各事実について
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔二三二〕
判示第一の事実について
一 被告人の検察官調書〔二七一〕
一 分離前の相被告人藤井好子の当公判廷における供述
一 藤井好子〔二六五〕、上村一郎〔二四七〕、藤井宏子〔二四八〕、能方孝子〔二四九〕、近藤良子〔二五〇〕、里山利子〔二五一〕及び藤井康守〔二五二〕の検察官調書
一 査察官調査書〔二三六ないし二四〇〕
一 証明書〔二二九〕
判示第二の事実について
一 分離前の相被告人酒井君子の当公判廷における供述
一 鈴木彰〔二七八〕及び宇治田昌弘〔二五四〕の検察官調書
一 査察官調書〔二四一ないし二四四〕
一 証明書〔二三〇〕
判示第三の事実について
一 藤井輝夫〔二五五〕の検察官調書
一 査察官調査書〔二四五〕
一 証明書〔二三一〕
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔二三三〕
(法令の適用)
被告人の判示第一及び第二の各所為は、平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項に、判示第三の所為は、旧刑法六〇条、六五条一項、所得税法二四四条一項、二三八条一項にそれぞれ該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑の併科を選択し、かつ、情状によりそれぞれ同条二項を適用して右の罰金の額はいずれもその免れた所得税の額に相当する額以下とし、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年六月及び罰金五〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、藤井好子、酒井君子及び藤井輝夫ら所有の不動産の売却を仲介した被告人が、判示のとおり、右三名の所得税確定申告手続に関与し、合計六億四八〇〇万円余りもの高額の所得税をほ脱したものであり、ほ脱率は三名分合計の平均で約九一・五パーセントに達し、納税義務に著しく反する重大事案である。
本件は、右三名の所得税確定申告書において、右不動産売却につきそれぞれ譲渡収入の一部を除外し、また、架空の譲渡費用を計上するほか、酒井君子の所得税については、同人所有の不動産を鈴木に対して安価で売却したかのように仮装し、その旨の売買契約書を作成することにより、架空の短期土地譲渡損失約八〇〇〇万円を計上する方法により行われたものであるところ、その中における被告人の関与態様についてみるに、被告人は、右不動産売却に伴う藤井好子や酒井君子の所得税を安くすることができれば、同人らに被告人の仲介する不動産を購入してもらうことができ、そうすれば被告人が仲介手数料を得ることができるとの思惑から、従来から右不動産売却について相談をしていた当時税理士であった平井に対し、右不動産売却にかかる税金の額を低く抑えて申告したい旨本件脱税を依頼して鈴木を紹介してもらう一方、藤井好子及び酒井君子に対して本件脱税を持ち掛けてこれを了承させたこと、その後も、右両名に代わって、本件脱税の金額等につき、鈴木及び平井と交渉を行ったことからすれば、被告人は、本件脱税において、重要な役割を果たした者の一人であると言わざるを得ない。
また、被告人は、本件脱税に関与することにより、藤井好子及び酒井君子から、謝礼として約一〇八二万円を受領したほか、鈴木に対する謝礼である旨偽って約一億〇三四〇万円の交付を受けてこれを利得して、合計一億一〇〇〇万円余りもの極めて高額の脱税報酬を受けており、特に後者の約一億円の交付については、被告人は、鈴木から同人に対する報酬を含む金額を指定されてこれを持参するよう要請されていたにもかかわらず、藤井好子及び酒井君子に対して、右金額に加えて鈴木に対する報酬名下に右約一億円もの高額の金員を上乗せして請求し、これを自ら利得していたものであって、その利得の方法についても強い非難を免れない。
以上のとおり、本件脱税の規模及び態様並びに被告人の関与及び利得の状況からすれば、被告人の刑事責任はまことに重大である。
一方、被告人は、藤井好子及び酒井君子から受領した右報酬一億一〇〇〇万円余りに加え、右両名が被告人の提案に基づき平井に対してなした謝礼二〇〇〇万円を含む一億四〇〇〇万円の借用証を作成した上、平井側が藤井好子らに対して返却した二〇〇〇万円を除いた一億二〇〇〇万円について、被告人所有のマンション四棟に抵当権を設定しており、さらに、右一億二〇〇〇万円の返済に充てるべく、被告人の関係する会社の不動産を売却する手続を進めていること、本件各事実を素直に認め、反省していること、業務上過失傷害による罰金一犯以外に前科がないことなど、量刑上被告人に有利な事情も認められる。
そこで、以上の事実を総合して考慮の上、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し、懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断した。
よって、主文のとおり判決する。
平成八年四月四日
(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 増田啓祐 裁判官松下潔は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 田中正人)
別紙(一)
修正損益計算書
藤井好子
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
(総所得金額)
<省略>
(分離長期譲渡所得)
<省略>
(分離短期譲渡所得)
<省略>
(総合課税総所得)
<省略>
別紙(二)
税額計算書
藤井好子
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
酒井君子
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
(総所得金額)
<省略>
(分離長期譲渡所得)
<省略>
(損益通算)
<省略>
(総合課税総所得)
<省略>
別紙(四)
税額計算書
酒井君子
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
<省略>
別紙(五)
修正損益計算書
藤井輝夫
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
(総所得金額)
<省略>
(分離長期譲渡所得)
<省略>
別紙(六)
税額計算書
藤井輝夫
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
<省略>